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トップハート物語(438)立志伝昇竜編
12/01/09
2003年(平成15年)6月上旬。Tさんが不慮の死を遂げたと同時に、Kさんが病院から4ヶ月ぶりに帰宅した。
 Tさんの死因は心不全だと警察からも言われた。遺族もそう言っていた。それに対して、私なりに不審な点があって納得し切れない心情になっている。
 車椅子が上がりかまちの縁で止まっていた。縁はフラット。身体だけ1m50㎝幅の土間を越えて玄関のガラス戸を突き破っていた。顔はガラスで傷だらけ。手がリュウマチで曲がっており車椅子は動かせない。倒れるにしても、足をあげているフットレストを踏みつけるようになるので、どのようにか動いたのか。つまり、歩けない動けない人が宙を飛んで行ったのだ。
 ガラス戸のカギはヘルパーさんが閉めないで、テーブルの上に置いたと言う。そのカギが何処にも無い。最後まで発見されず。鍵を持って行った人物は誰なのか。
 納得出来ない事柄が沢山あるが、それを言っても誰も取り上げないだろう。特に親戚と言われている人が迷惑がるだろう。亡くなって初めて利用者宅を訪れた管理責任者が目にしたものは、ポツンと置かれた遺骨だという。
 独居で身寄りが無いと言われていたが、代理人として契約していたのは、遠い親戚の方で住まいも遠い。お通夜に来ていたので当然遺骨も持って帰っているものと思っていた。
 まだ住宅の契約が残っているのか、遺骨がテーブルの上に置いてあると、
 「花もお線香もありませんので、ケアマネジャーと相談して花だけでも手向けたいと思います。」
 と報告して来た。
 夜に成った。10時頃雨足が強く、嫌な空模様だった。
 「今、Kさんへ行っているヘルパーさんから連絡が入ったのですが、もどしているようです。お腹も痛いというのでさすってあげていて、このまま帰れないと。どうしたらいいですか。」
 「ケママネジャーに連絡をとって、現状を話し指示を仰ぐ他無いだろう。」
 管理者からの返事は意外だった。
 「ケアマネジャーと連絡が付きました。救急車を呼んで病院へ連れて行って下さいということでした。」
 利用者の気持ちを第一にいつも考えて指示をするあのケアマネジャーが、いとも簡単に救急車を呼んで処理しなさいとは考えられない。しかし、管理者がそう聞いたなら、私が勝手に判断する訳には行かない。
 「ヘルパーさんに連絡して下さい。」
 「不安ではないでしょうか。」
 「救急車呼ぶくらい誰でも出来るだろう。」
 「私今から行きます。迎えに行きますので一緒に行ってくれますか。」
 彼女は隣の市から私を迎えに来て、利用者宅へ向った。既に夜11時を過ぎていた。
 利用者は4ヶ月前に、ポータブルトイレに行こうとして転倒。ポ-タブルトイレに体ごとぶつけて、あばら骨5本と肩の骨を骨折した。要介護5で、毎日3回訪問し独居の彼を手厚く援助していた。
 病院に入る前は、何度も注意をしたがヘルパーさんの好意によって好きなものばかり食べて、かなり体重が増えた。それが原因で、体のバランスを崩すようになったのが、転倒の原因かも知れない。
 しかし、病院では嫌いなものは食べないという日が続き、ガリガリにやせ細って、見るも無残な姿となって戻って来た。20kgは減少したと言う。
 退院した月曜日は、好きなものを一杯食べて、嬉しさを表現していた。その日から異変が現われて来た。食べないのだ。いや、食べてももどしてしまう。軽く食べていた食材も、段々と口にしなくなり水分も取れなくなって来た。
 ケアマネジャーが、何時間も付き添ったあと電話を掛けて来た。
 「この1週間が山だと思います。おかしい、あれほど食べるのが好きだったのに、何も食べようとしない。点数は出ても構いません。手厚く援助をお願いしたいのですが。現在の3回を、5回にします。」
 先日に不慮の死を迎えた利用者も彼も要介護5。毎日、日曜日も祭日も関係なく援助を行っている。ケアマネジャーも同じ人で。
 深夜に近い時間で眼が冴えている。Kさんの手を握って、
 「病院へ行く?」
 首を振りながら、手で拒否をした。病院が嫌で、出てきたのだ。それを帰すという事は出来ないというのが私の考えだった。病院は利用者とって嫌なのだ。
 「何も食べないと死んでしまうよ。少しずつでいいから、何か食べる?」
 手を振って、拒否した。
しかし、水分だけでもと思って、口にチューブを持って行った。悪いと思ったのか、飲んだが直ぐにむせて、赤ちゃんが口からミルクを吐くように、何度も少しずつ出した。
 何度か声をかけたが、少しずつ返事をしなくなった。目をつぶった瞼に涙が滲んでいた。まるで死を覚悟しているように。
 再度ケアマネジャーに連絡をさせた。既に、深夜になっていた。
 「現場の判断に任せます。先程は、ヘルパーさんが大変だと言ったので救急車を呼ぶように言ったのです。」
 現場の結論は、今夜はこのまま眠って貰うようにした。明朝から、無理をして食べさせないように、少しずつ何度かに分けて食べて貰うようにすることにした。
しかし、この後異変が起きてしまう。

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