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トップハート物語(426)立志伝昇竜編
11/12/20
2003年(平成15年)6月下旬。
土曜日は極端に電話も掛かって来ない。ケアマネジャーが休みだと、幾分ホッとする。
 この日は、以前から予定していた通院介助に行った。その方は、以前は月に2度あったが、ほとんど私がついて行った。忙しくなり、何時の間にか長い間同行することがなかった。
 いつもその日は、体が不自由なので時間に遅れないように玄関に正座して待っている。時間になって準備をしてからだと遅くなるので、早く起きて少しずつ支度をして這って玄関先まで来て、座って待っている。
 同行する智子さんとは、利用者宅へ遅れないように時間を見計らって、9時50分に待ち合わせた。約30分掛かると見込んでいた。とにかく、利用者には待たせない。特にこの方はその動作を知っているから、少し早目に訪れたいと智子さんにも話していた。
 ところが、約束の時間になっても智子さんは現れない。携帯電話に連絡をしたが留守電に成ってしまった。2度目電話をした。今度は出たが、
 「直ぐ行きます。」
 との返事だった。待っていたが、イライラして時間の経過がどのくらいなのか分らないまま、また電話をした。
 「済みません。直ぐ行きます。」
 それから数分後、現れた。
 「何で遅れるんだ。Mさんはどんな風に待っているか分っているだろう。どうして相手の気持ちになって考えないんだ。玄関で正座して待っているんだぞ。」
 無言で、駐車場を出た。運転はいつものように、逆切れされて怒っているとわざと荒くなるが、そのものだった。自分がどうして怒られているのか分らない。いや、分っているのだが言われたのが悔しいのか。それが、智子さんの感覚なのだろう。
 郵便局の本局を通って行く道を指示した。しかし、言う事を聞かない。何となく回り道で向って行ったので、どのように行くのか聞いた。
 「この道の方が空いているから。」
 「それじゃ、待っているMんはどうなるのだ。時間通り着くのか。目的は、遅れないでMさんのところへ行くことだろう。」
 「郵便局に用事があるのですか。」
 「違うよ、郵便を出すだけだ。」
 「それじゃ、Mさんの近くに郵便局があります。」
 「本局へで出したかった。昨日申し込まれた講習の案内状を本局で出せば、土曜日でも開いているので早く処理が出来て、配達してくれる。街の郵便局は土曜日は休みだから本局を通って行ってくれと頼んだ。」
 「分りました。仕事の帰りでも良いですか。」
 「それじゃ同じだから、そこのポストに出そう。」
 常に、相手の気持ちに立って物事を考えるように話をしたが、どれだけ理解してくれたか分らない。
 久し振りのMさんは痩せて見えた。
 「暫くです。少し痩せましたか。」
 「いや、太りました。恥ずかしい。」
 そんな会話から、隣の空き地に新しい家が建っているので、
 「以前お伺いしていた頃は、隣の家がなかったのですが、完成するのに何ヶ月ぐらいだったですか。」
 「半年以上掛かっています。」
 「それでは、半年以上も会っていなかったのですね。」
 「そうです。お宅とは2,3年会っていませんか。」
 と、智子さんに声を掛けた。
 「いや、そんなことありません。」
 と、驚いた様子で智子さんが返事をしていた。間は1年も無い筈だ。
 「スイマセン。最近ボケて来たから。」
 と、笑っていた。久し振りの通院は、笑いで始まった。歩くのがかなり厳しくなっていた。しかし、自分の足で杖を着いて歩く。2,3歩歩いては膝をさする。手を添えようとしても、
 「大丈夫です。」
 と、我慢する。
階段や、段差のあるところではどうしても一人では無理なので、援助する。自分も安心する。手だけでも支えているといざという時に対応できるが、ふれるか触れないかの状態では、私が不安だ。特に膝折れが心配だ。それでも、自立の精神で頑張っているのに、邪魔する訳には行かない。
 通院が終わり自宅へやっと送ったが、家族の方が出て来ない。いままで、インターホンでの遣り取りはあったが、顔を見たことが無い。利用者も、お孫さんのことを話しはするが家族のことは話さない。
 玄関で何度か、帰って来たことを告げると、やっと出て来た。冷たい感じの応対で、挨拶しても返事が無く、表情も無い。利用者の置かれている立場が良く分った。何か空しい気持ちになって、玄関の戸を閉めた。

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